丑年の住宅業界を振りかえる

今年を振り返るにはすこし早いような気もしますが、今年の住宅業界について考えてみました。

なんといっても、年明けから春にかけて3社のハウスメーカーが倒産したことが大きなニュースであり、波紋をよびました。

  • 1月9日 東新住建民事再生申請(愛知県)
  • 1月30日 富士ハウス破産申立て(静岡県)
  • 3月24日 アーバンエステート民事再生申請(埼玉県・後に破産申立て)

特に、富士ハウス・アーバンエステートについては、倒産ぎりぎりまで建主からの入金要請を積極的に行っており、倒産による被害者増加につながり社会問題にまでなりました。

工事中や着工前に契約を交わしていた住宅会社が倒産すると、建主には経済的に大きな被害が発生し、その救済策がまったく無いことが露呈したわけですが、住宅行政におけるこのあたりの立ち遅れを強く感じたものです。
政治家もこの問題を取り上げ政策検討が行われましたが、残念ながら未だ具体策は見えていません。

請負契約における契約金や中間金などは、工事を行うための費用ですので、不動産取引に見られる手付金保全措置のような仕組みは難しく、簡単には解決できないと思います。 唯一方法としてあるのは『完成保証制度』ですが、この制度は性能保証制度のオプションなのですが、登録費用が高く利用率は低いようです。

今年10月からスタートした『瑕疵担保履行法』は絶対安心とは言えないまでも、引き渡し後にハウスメーカーや工務店が倒産した場合に、10年保証を担保するものです。

引き渡し後に加えて、工事中・着工前の建主保護が為されることによって、住宅被害者が生まれる原因の一部を解消できるように思うのですが、まだまだ先のことのようです。


昨年のリーマンショック以来、国内の経済状況は一変し、特に不動産業者の倒産が今も続いています。

新築戸建て・マンションの販売状況は厳しいものがありますが、反面、中古市場は『活況』といえる状況の地域があります。
特に首都圏においては、春以降連続して前年比増の取引数となっており、低金利・低価格を背景に今後も伸びが期待できるところです。

中古市場には『リノベーション』というコンセプトが生まれ、これまでのリフォーム住宅よりもいちだん上のグレードをもった『再生住宅』が話題となっています。

環境への配慮であるとか、スクラップアンドビルドから良質なストックへと時代は変わっていきます。
そしてこのような変化は大きなビジネスチャンスでもあり、この分野に参入する企業も少なくありません。
そのため、これまではあまり問題とならなかったリフォーム工事での新たなトラブルが生まれるようになってきています。

それは、築年数の古い住宅の構造的な欠点を解消することなく、住宅設備や外壁・屋根などの外見上だけの工事を行い『リノベーション住宅』と謳って販売される住宅です。
構造的な欠点をそのままにしているため、耐震性能や耐久性に疑問がある住宅だったり、時には床の傾きが限度以上になっている欠陥住宅があったりします。

住宅を求める人たちのほとんどは、専門的な知識も無く経験豊富そうな(?)営業マンの言葉を信用するしかありません。
引渡を受けて住み始めてから、初めて欠陥に気づくこともあります。
車のように試運転などできない住宅の場合には、生活してからでなければ分からないことがかなりあります。

築20年、30年という住宅が、新築同様の外見と新築よりも割安な価格で販売されているわけですから、おおきな関心や注目されるのは理解できます。
しかし、目に見えない部分のしっかりした点検確認が必要な物件が多いことも忘れてはなりません。


建築士法が改正されて社会的な責任が大きく変化しました。
これまでは施工会社の責任ばかりが追求される傾向にあったのですが、設計業務上の責任をより明確にし、賠償責任まで問われるようになります。
設計者は、自ら設計した建物に責任を持つと同時に、工事監理業務を通して設計意図が正確に工事に反映されるよう努める必要があります。
これは設計者にとっては義務でもあり権利でもあります。

しかしながら、住宅業界においては設計者の立場は非常に弱く、軽い存在となっているのが現状です。
設計契約が建主との直接的な関係によって締結されることは珍しく、多くはハウスメーカー・住宅会社・工務店の下請けとして存在している設計事務所にとっては、責任ばかりが大きくなる変化に戸惑いを感じる部分もあるようです。

また、ハウスメーカーにみられるように、設計・施工が独立していない弊害もかねてから言われてきたことですが、建築士の社会的立場の確立が為されないことの一因ともなっているように思います。

私自身も長く設計業界にいました。
人からは『先生』と呼ばれることが多い立場ですが、陰ではゼネコンの寄生虫とか言われてもいます。

つまりいてもいなくてもいいんだけど、建築基準法並びに建築士法によって『しようがないから必要な資格』程度しか思われていません。

建築士に対するそのような評価が、逆に姉葉事件が起きるような遠因ともなっているわけです。

今回の法改正によって、責任の自覚と自らの職能を社会的に認知させる努力を、建築士自身がしなければならないと強く感じています。


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